毎日見かける「トイレのマーク」や「非常口の人型サイン」。
これらの視覚記号=ピクトグラムには、実は奥深い歴史と意味があります。なぜ絵だけで意味が伝わるのか? どんな背景で生まれ、どんな場面で活用されているのか?
本記事では、ピクトグラムの起源から何のために開発されたのかその目的や、ピクトグラムの現在から未来の可能性までをわかりやすく解説。
読むと、身の回りのサインがもっと面白く見えてくるはずです。
ピクトグラムってそもそも何?
ピクトグラムという言葉、聞いたことはあるけれど詳しくは知らない…という人も多いかもしれません。ここでは、ピクトグラムの基本的な意味や、日常でどのように使われているのかを見ていきましょう。
視覚記号の定義とは
ピクトグラムとは、文字ではなく「視覚的な絵や記号」で情報を伝える手段です。
たとえばトイレの男女マークや、非常口の走っている人のマークなど、文字を使わずに見るだけで意味がわかる図形のことを指します。英語では「pictogram」と書き、「pict(絵)」+「gram(記号)」から来ている言葉です。
この視覚記号の最大の特徴は、「言葉がわからなくても伝わる」こと。子どもや外国人、高齢者、文字が読めない人でも直感的に意味がわかるように作られています。そのため、公共施設や空港、病院など、さまざまな場所で使われているのです。
また、ピクトグラムは単なるイラストとは異なり、統一されたルールに基づいてデザインされています。これは誰が見ても同じ意味に受け取れるようにするためで、デザインの細かい部分まで配慮されています。情報の「ユニバーサルデザイン」の代表例と言えるでしょう。
ピクトグラムは、視覚に訴える力を活かして、世界共通の情報伝達手段として広がっています。
スマートフォンやアプリなどデジタルの世界でも、アイコンとして広く使われています。
絵文字との違いは?
よく混同されがちですが、ピクトグラムと絵文字(Emoji)は実は目的も使い方も異なります。
絵文字は感情や雰囲気を伝えるための装飾的な記号であり、主にSNSやメールなど個人間のコミュニケーションで使われます。
一方、ピクトグラムは「公共性」を持った視覚記号です。
「誰にでも意味が伝わること」が最優先で、感情を表すよりも「正確な情報伝達」が目的です。つまり、ピクトグラムは「意味を伝える看板」、絵文字は「気持ちを伝える装飾」と考えるとわかりやすいでしょう。
また、絵文字は国や文化によって意味が異なることがありますが、ピクトグラムは国際的に統一されたルールやガイドラインが存在します。例えば非常口のピクトグラムは、日本でもヨーロッパでも似たようなデザインになっており、言語や文化の違いを超えて意味が伝わるよう工夫されています。
世界中で使われる理由
ピクトグラムが世界中で使われている理由は、主に3つあります。
1つ目は「言語を超えて情報を伝えられる」こと。国際空港や観光地では、さまざまな言語を話す人が訪れますが、すべての言語に対応するのは現実的ではありません。そんなとき、ピクトグラムなら一目で情報を伝えることができます。
2つ目は「素早く伝わる」こと。たとえば火災や地震などの災害時に、文字で「非常口はこちら」と書かれていても、それを読む時間はありません。でも、緑色で走っている人のピクトグラムなら一瞬で逃げ道がわかります。
3つ目は「情報の整理」にも役立つという点です。たとえばショッピングモールでトイレや授乳室の場所を知りたいとき、ピクトグラムがあればマップを見るだけで理解できます。
このように、ピクトグラムは時間・言語・状況を問わず、誰にでも情報を伝えられる「万能のサイン」として世界中で活用されています。
なぜ文字より便利なの?
文字は便利なようでいて、実はさまざまな制限があります。
たとえば、文字は読める人にしか意味が伝わりません。また、言語ごとに形や文法が違うため、多言語対応が必要になります。
その点、ピクトグラムは言葉がわからなくても見ただけで理解できます。
特に高齢者や子ども、読み書きが苦手な人にとっては、文字よりもずっと親切な情報伝達手段です。
さらに、文字よりも情報伝達のスピードが速いのも特徴です。たとえば「非常口」と書かれた文字を読むより、緑色の走っている人のマークを見た方がすぐに意味が伝わります。
ピクトグラムは、私たちが瞬時に理解できるように、人の認知心理学や視覚認識の研究をもとに設計されています。つまり「見ただけで理解できる」ように、形や色、動きまでが考えられているのです。
日常生活での使用例
ピクトグラムは、私たちの日常生活のあらゆる場面に登場しています。
例えば以下のような場所で見かけることができます。
使用場所 | 具体例 |
---|---|
トイレ | 男女マーク、車いす対応表示 |
駅・空港 | 電車マーク、飛行機マーク、エレベーター・エスカレーター |
病院 | 救急、内科、外科、薬局などのマーク |
道路 | 歩行者横断、動物注意、工事中など |
デジタル機器 | 保存アイコン(フロッピーディスク)、共有マーク、設定(歯車)など |
特にデジタル社会では、スマホやパソコンの操作アイコンとしてピクトグラムが欠かせません。
また、観光案内板や公共マップなどでも重要な役割を果たしています。
私たちは意識せずとも毎日ピクトグラムに助けられているのです。
ピクトグラムの歴史と起源を探る
今では当たり前のように使われているピクトグラムですが、そのルーツはどこにあるのでしょうか?このパートでは、古代から現代までの進化の流れをたどっていきます。
古代文明における絵記号の役割
ピクトグラムのルーツは、実は古代文明にまでさかのぼります。
たとえば、エジプトのヒエログリフ(象形文字)や、メソポタミアの楔形文字、中国の甲骨文字などがその起源とされています。これらはすべて、具体的なものや動作を「絵」で表し、言葉や意味を伝えようとしたものです。
当時の人々は、まだ文字を持たなかったため、絵を使って情報を記録していました。たとえば「鳥」は鳥の絵で、「太陽」は丸い形で描かれるといった具合です。これはまさに、現代のピクトグラムと同じ「視覚で意味を伝える」方法です。
また、古代の絵記号は宗教や儀式、商取引、建築物の案内など、さまざまな場面で使われていました。つまり、古代の人々もまた「誰にでもわかるようにするための工夫」としてピクトグラム的な記号を活用していたのです。
現代のピクトグラムとは形こそ違いますが、「視覚を通じて共通の意味を伝える」という基本的な目的は変わっていません。
近代のピクトグラムの始まり
ピクトグラムが近代的な形で使われ始めたのは、20世紀に入ってからのことです。特に注目すべきは、1920年代から30年代にかけてのヨーロッパです。この時代、鉄道や道路、公共施設が急速に発展し、多くの人が都市に移動するようになりました。そこで必要となったのが、「誰にでも一目で意味が伝わる標識」でした。
このニーズに応えるため、ドイツやスイスなどでは視覚的なサインの開発が進められました。特に、オットー・ノイラートという思想家が提唱した「ISOTYPE(アイソタイプ)」という図解手法は、ピクトグラムの進化に大きな影響を与えました。ISOTYPEは、複雑な統計データを単純な図形で示すことで、教育や政治にも使われるようになったのです。
つまり、近代のピクトグラムは「都市化」と「情報化」が進む中で生まれ、社会の課題に応えるための工夫として発展していきました。
1964年東京オリンピックがもたらした変化
ピクトグラムが国際的に注目されたきっかけの一つが、1964年の東京オリンピックです。この大会は、日本が戦後の復興をアピールする重要な舞台でもあり、海外から多くの観光客や選手が訪れました。
しかし当時、日本語がわからない外国人にとって、施設の利用や移動は非常に難しいものでした。そこで大会組織委員会は、「言葉のいらない案内サイン」を作ることに決めました。これが、日本初の本格的なオリンピック用ピクトグラムです。
デザインを担当したのは、日本を代表するグラフィックデザイナー・亀倉雄策を中心としたチーム。競技種目や案内表示を、シンプルでわかりやすい図形で表現し、誰でも瞬時に理解できるよう工夫されました。
この取り組みは世界的に高く評価され、以後のオリンピックでもピクトグラムの使用が定番となりました。東京大会は、「現代ピクトグラム元年」とも呼ばれるほど、デザイン史に残る重要な出来事だったのです。
国際標準化とISO
ピクトグラムは、その効果が認められたことで、次第に国際的なルール作りが進みました。現在、世界中で使われている多くのピクトグラムは、ISO(国際標準化機構)によって規格化されています。
たとえば、非常口のピクトグラム(緑色の背景に白い人が走るデザイン)は、ISO 7010という規格で定められており、世界中の公共施設や空港、オフィスビルなどで使われています。これにより、国や言語が違っても、同じ意味を持つサインとして認識されるのです。
ISOは、色や形、大きさ、配置のルールまで細かく定めており、「誰にでも見やすく、意味が明確に伝わる」ことを目的としています。標準化によって、旅行者や外国人だけでなく、すべての人にとって安心で安全な社会づくりが進められています。
日本での発展と現在の姿
日本におけるピクトグラムの活用は、東京オリンピックをきっかけに一気に広まりました。その後も、駅や空港、公共施設などでピクトグラムが導入され、今日では日常生活のあらゆる場面で見ることができます。
特にJRや東京メトロなどの鉄道会社では、多言語対応と合わせて視覚的な案内が強化され、観光客や高齢者への配慮としてピクトグラムが積極的に使われています。また、バリアフリー化の一環として、車いすや補助犬対応のピクトグラムも増えています。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、再び新しいピクトグラムが話題になりました。特に開会式で行われた「ピクトグラムパフォーマンス」は、日本らしいユニークな演出として世界中で称賛されました。
このように、日本ではピクトグラムが「国際化」「安全性」「多様性」などのキーワードと深く結びつき、進化を続けているのです。
ピクトグラムは何のために開発されたのか?
そもそも、なぜ「絵で伝える記号」が必要とされたのでしょうか?ピクトグラムが生まれた背景と、その開発目的について掘り下げていきます。
言語の壁を超えるため
ピクトグラムが開発された一番の理由は、「言語の壁を越えて情報を伝える」ことです。私たちの住む世界には、数千以上の言語が存在しています。たとえば英語や中国語、アラビア語、フランス語など、それぞれまったく異なる表記や発音を持っています。
しかし、ピクトグラムなら言葉を知らなくても意味を伝えることができます。たとえば「🚻」このマークを見れば、どの国の人でも「トイレだな」とすぐに理解できますよね。これがピクトグラムの強みなのです。
空港や駅など、世界中から人が集まる場所では、全ての言語で表記することは物理的に不可能です。だからこそ、一目でわかる視覚的なサイン=ピクトグラムが必要とされるのです。
誰でも直感的に理解できる表現
ピクトグラムは、子どもから高齢者まで、誰にでも直感的に理解できるよう設計されています。 文字や言語に頼らず、形や色だけで情報を伝えるため、読み書きが苦手な人でもすぐに意味がわかります。
これは、「ユニバーサルデザイン」の考え方と非常に近いです。ユニバーサルデザインとは、すべての人にとって使いやすく、わかりやすいデザインのこと。ピクトグラムはまさにその代表格なのです。
たとえば「赤い円に斜線が引かれたマーク」は、世界中で「禁止」や「ダメ」を意味します。これは、人間の心理的な反応を利用していて、誰でも本能的に「注意」を感じるように作られているのです。
このように、ピクトグラムは人の感覚や認知の仕組みをもとに、見ただけで意味が伝わるように設計されています。
災害時や緊急時の命を守る手段
ピクトグラムは、災害や緊急時に命を守るための重要なツールでもあります。
地震、火災、津波などが発生したとき、私たちは冷静に文字を読む余裕がありません。でも、非常口のピクトグラムを見れば、どの方向に逃げればいいのかすぐに判断できます。
特に最近は、地震や豪雨など自然災害が多発しており、防災に対する意識も高まっています。その中で、ピクトグラムは「瞬時に行動を促す命綱」として非常に重要な役割を果たしています。
また、防災訓練や避難マニュアルにもピクトグラムが使われており、外国人観光客や子ども、高齢者にも配慮された情報提供が進んでいます。たとえば、「津波避難場所」「避難所」「AEDの場所」など、命に関わる情報はすべて視覚的に伝えられるように工夫されています。
視覚障がい者や外国人への配慮
ピクトグラムは、視覚に訴えるデザインとして活用されますが、実は視覚障がい者や外国人への配慮としても非常に重要な役割を果たしています。
例えば、視覚に障がいのある方の中には、全く見えないのではなく「ぼんやりと形や色がわかる」という方もいます。そのような場合、文字だけでは判別しづらいですが、大きくシンプルなピクトグラムなら情報を把握しやすくなります。また、色覚障がいのある方にも配慮したコントラストや形状の工夫がなされています。
外国人にとっては、日本語や英語など、すべての言語を理解するのは難しいことです。しかしピクトグラムなら、言葉を知らなくても情報がすぐに伝わります。特に災害時や緊急時には、説明文よりも視覚的な案内のほうが素早く役に立ちます。
このように、ピクトグラムは「すべての人にとって使いやすい社会」を実現するための、非常に有効なツールなのです。
公共空間の情報整理として
ピクトグラムは、空港、駅、病院、役所、ショッピングモールなど、さまざまな公共空間での情報整理に大きく貢献しています。
例えば、大きな駅では多数の案内が必要になりますが、すべてを文字で表示するとごちゃごちゃして読みにくくなってしまいます。そんなとき、ピクトグラムを使えば、アイコンのようにコンパクトに情報を伝えることができます。
「🚻トイレ」「🚉駅」「🅿️駐車場」「🛒ショッピング」など、目にした瞬間に理解できるので、利用者のストレスも大幅に減ります。
さらに、多言語での案内板と組み合わせれば、外国人観光客にもスムーズに情報を伝えることができます。言葉の違いや読み書きの苦手さを問わず、誰もが平等にアクセスできる情報環境を作ることが可能です。
都市の複雑化が進む現代において、ピクトグラムは「見える整理整頓」の役割を果たしているのです。
現代のピクトグラムの役割とは?
現代社会の中で、ピクトグラムはますます重要な存在になっています。ここでは、私たちの身近な場所で活躍している最新の活用事例を紹介します。
交通や公共施設での利用
現代のピクトグラムは、私たちの生活に欠かせない交通機関や公共施設で大活躍しています。
たとえば駅では、電車の乗り場、エレベーター、出口、トイレ、ベビールームなど、さまざまな場所にピクトグラムが使われています。これにより、言語がわからなくてもすぐに目的地へたどり着けるようになっています。
バスや飛行機でも同様です。行き先や乗り換え案内、安全指示などを視覚的に示すことで、誰にでもわかりやすく案内することができます。特に乗り物の中では、揺れたり混雑していたりするため、文字よりも一瞬で理解できる図形の方が便利なのです。
また、役所や病院といった公共施設でも、受付や待合室、診察科の案内にピクトグラムが使われています。初めて訪れる人にもやさしい案内が求められる現代では、ピクトグラムの存在がますます重要になっています。
オリンピックや国際イベントでの役割
オリンピックやワールドカップなど、世界中の人々が集まる国際イベントでは、ピクトグラムの役割が特に大きくなります。
一つの国で開催されるとはいえ、観客や選手は多国籍。すべての言語で案内することは現実的ではないため、ピクトグラムによる「視覚共通語」が必要不可欠となります。
たとえば競技種目の案内、施設の使い方、トイレや医療対応の場所などはすべてピクトグラムで表示されます。言葉を超えた共通理解ができるようにすることで、混乱を防ぎ、円滑な運営が可能になります。
2020年の東京オリンピックでは、視覚的に躍動感のある競技ピクトグラムが導入され、その美しさと機能性が話題になりました。ピクトグラムは「日本のおもてなし精神」を象徴する存在として、世界中から高い評価を受けたのです。
SDGsとピクトグラムの関係
最近では、SDGs(持続可能な開発目標)の普及に伴い、ピクトグラムがますます注目されています。
SDGsには、17の目標があり、それぞれに対応するカラフルなピクトグラムが存在します。たとえば「貧困をなくそう」には手を差し伸べる人のマーク、「ジェンダー平等を実現しよう」には男女のシンボルが描かれています。
これらのピクトグラムは、学校や企業、自治体などでポスターや資料に使われ、世界中で共通の目標を認識できるツールとして活用されています。特に子どもや外国人にとってもわかりやすいため、教育現場でも重要な役割を果たしています。
SDGsの理念である「誰一人取り残さない」を実現するためにも、ピクトグラムは非常に効果的な手段です。視覚的に情報を共有できるという点で、まさに「持続可能なコミュニケーション」の象徴といえるでしょう。
Web・アプリデザインでの活用
現代では、スマートフォンやPCを使ったWebサイトやアプリのデザインにも、ピクトグラムが幅広く使われています。
たとえば、アプリの「ホーム」「戻る」「設定」などのボタンは、すべてピクトグラム(アイコン)で表されていますよね。言葉で書くよりもスペースを取らず、誰でもすぐに操作内容を理解できます。
また、Webデザインにおいても、視覚的なナビゲーションとしてピクトグラムが重要視されています。情報が多いページでも、適切なアイコンを配置することで、視線の誘導や操作のしやすさが大きく向上します。
最近では、「ダークモード対応」「アクセシビリティ対応」など、より多様なユーザーへの配慮として、見やすさや認識しやすさを重視したピクトグラムの選定が進められています。
インターネット社会において、ピクトグラムは「わかりやすさ=ユーザビリティ」の要ともいえる存在です。
教育・医療分野での広がり
ピクトグラムは、教育や医療の現場でも重要な役割を担っています。
教育分野では、小学生や特別支援教育の場面で、文字ではなく図形を使った教材や案内が使われています。たとえば、「掃除の時間」「給食」「体育」などを絵で示すことで、時間割や予定が一目でわかるようになります。これは、言語の発達が遅れている子どもや外国籍の子どもにも効果的です。
また、医療現場では、科目案内や薬の説明、検査の流れなどでピクトグラムが活用されています。特に高齢者や外国人患者に対して、複雑な医療用語を文字だけで説明するのは難しいですが、ピクトグラムなら一目で意味が伝わります。
医療ミスの防止や、患者の不安軽減にもつながるため、病院全体のサービス向上にも貢献しています。
このように、ピクトグラムは「わかりやすさ」を通じて、教育や医療の現場を支える存在となっているのです。
未来のピクトグラムはどう進化するのか?
テクノロジーと共に、ピクトグラムも進化を続けています。未来の社会では、どんな姿になっているのでしょうか?新しい可能性を探ってみましょう。
AIと組み合わせた自動翻訳ピクトグラム
近年のAI技術の進化により、ピクトグラムもさらに高度な機能を持つようになると考えられています。
たとえば、AIと連携した「自動翻訳ピクトグラム」の実現が期待されています。
この技術では、カメラやスマートフォンを通して言語の情報をピクトグラムに変換したり、逆にピクトグラムを言語として音声やテキストに変換することが可能になります。
つまり、言葉がまったくわからない外国人観光客が、スマホをかざすだけで、ピクトグラムを自分の母国語に変換できるようになるのです。
さらにAIは、ユーザーの状況に合わせて最適な案内を表示することも可能です。たとえば、高齢者には見やすいサイズで、子どもにはよりカラフルで親しみやすいピクトグラムを提示するといった個別対応ができるようになるでしょう。
ピクトグラムとAIが融合することで、「よりパーソナライズされた視覚情報伝達」が現実になりつつあります。
カスタマイズ可能なピクトグラムの登場
従来のピクトグラムは、統一性や共通性が重視されてきましたが、今後はカスタマイズ性も求められる時代になるかもしれません。
例えば、企業や自治体ごとに独自のスタイルで作られたピクトグラムが増えつつあります。観光地では「地元の名物」や「ご当地キャラ」を活かした案内ピクトグラムが登場し、見る人に楽しさや親しみを与えています。
また、ユーザーが自由にテーマや色を選べるデジタルピクトグラムも登場しており、「自分に合った見え方」を提供できるようになります。これは、色覚障がいのある方や高齢者にとっても大きなメリットです。
ただし、カスタマイズのしすぎは意味の誤解を招くおそれもあるため、「基本のデザイン+補足要素」というバランスが重要になります。
これからは、「統一」と「多様性」の両立がカギとなるでしょう。
メタバースでの記号の役割
メタバースとは、インターネット上に作られた仮想空間のこと。今後この分野でも、ピクトグラムは新しい形で活躍すると予想されます。
メタバースでは、現実世界とは異なる言語や文化、ルールが存在します。そんな中で、ピクトグラムのような「共通認識ができる記号」がますます必要とされるのです。
たとえば、仮想空間内で「病院」「学校」「警察」などを表すピクトグラムがあれば、現実と同じようにスムーズな案内が可能になります。さらに、メタバースならではの動くピクトグラムや3D化されたサインも登場するでしょう。
仮想空間だからこそ、「ひと目で伝わる」「多国籍に通じる」ピクトグラムの価値がさらに高まると考えられます。
ジェンダー表現や多様性対応の進化
近年、ピクトグラムにおいてもジェンダーや多様性への配慮が求められるようになってきました。
従来のピクトグラムでは、「男性=青」「女性=赤」という固定的な色分けや、「スカート=女性」というステレオタイプな表現が主流でした。しかし現在は、性別を限定しない中立的なピクトグラムや、さまざまな身体的特徴を考慮したデザインが登場しています。
例えば、ジェンダーフリーのトイレ表示や、多様な身体能力を表現する人型ピクトグラムなど、誰もが自分に合った案内と感じられるよう工夫されています。
これからのピクトグラムは、「見た人が不快にならない」「誰もが自分ごととして理解できる」ことが大切になります。多様性を前提にしたデザインが、より包摂的な社会の実現につながっていくのです。
国際協力によるグローバルな統一へ
ピクトグラムの未来には、国際的な協力による統一も大きなテーマとなります。
現在、ピクトグラムはISOなどの国際規格によってある程度標準化されていますが、それでも国や地域によって違いがあるのが現実です。たとえば、非常口マーク一つとっても、走る方向や背景色が異なることがあります。
これらの違いは、海外旅行者や移住者にとって混乱のもととなりかねません。だからこそ今後は、より細やかなルール作りと、各国が協力して「地球規模での統一サイン」を目指す動きが求められています。
ユニバーサルデザインの精神のもと、誰もが安全で安心して移動・生活できるよう、グローバルな視点でピクトグラムの進化が進んでいくことでしょう。
まとめ
ピクトグラムは、私たちの生活に深く根ざした「視覚言語」です。
古代文明に端を発し、近代では都市化の中で発展し、現代では公共施設、デジタル、教育、医療、国際イベントなど、あらゆる場面で使われています。
その役割は単なる情報提供にとどまらず、「誰にでもわかる」「誰も取り残さない」というユニバーサルな価値観を体現するものです。特に災害時や緊急時には命を守る手段となり、SDGsのような世界共通目標の普及にも貢献しています。
そして今、AIやメタバース、多様性への配慮という新たな波の中で、ピクトグラムはさらなる進化を遂げようとしています。未来に向けて、より「人にやさしい」「地球にやさしい」記号として、その可能性は無限に広がっています。
ピクトグラムは、ただの「マーク」ではなく、世界をつなぐ「ことば」そのものなのです。